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一子相伝の本葛づくりを今に

高木 久助さん 廣久葛本舗 十代 高木 久助さん

子どもの頃から、父親であった九代高木久助氏について仕事を手伝っていたという。「188年受け継がれてきた伝統の技を、次世代に伝えていくのが、これからの私の使命だと思っています」と語る。葛切り・本葛など全国からのご注文も可能です。


 筑前秋月は『筑前の小京都』と呼ばれ、黒田藩5万石の城下町として栄え、武家屋敷跡や土蔵の白壁など、町屋の面影を今に残す情緒あふれる町。その秋月の名産として黒田藩から江戸幕府への献上の品でもあった廣久の本葛。

 今回は、江戸時代から続く製法を守り続ける本葛づくりの老舗、廣久葛本舗を訪ねました。

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●昔ながらの漢方薬

 葛は古来より風邪薬として知られる漢方薬『葛根湯』の原材料としても有名です。本葛にはイソフラボノイド(ダイゼイン)という成分が含まれており、熱を下げ、筋肉や血管の緊張を和らげる働きがあります。本葛は、健康な体を維持する上でも私たち日本人の生活になくてはならないものなのです。


●清流流れる城下町 秋月

 鎌倉時代の初めに、秋月種雄(たねかつ)が将軍源頼家から秋月荘を拝領して以来400年間、秋月氏の領地だったこの地は、江戸時代になり黒田長興(ながおき)が領主となり、黒田藩の城下町として栄えてきました。秋月の町並みには今も城下町としての特徴が残り、優れた史跡や景観がたくさんあります。また、町の至るところに清流が流れ、「筑前の小京都」といわれる秋月には、四季折々の美しい風情を求めて、多くの人が訪れています。


●白い金

 江戸時代、黒田藩は外貨獲得のため城下の産業育成にも力を入れました。そんな中特産として名を馳せたのが、秋月の和紙や、元結ロウ、そして本葛でした。

 本葛は、山地に自生した30年〜50年ものの葛(秋月では寒根葛(かんねかずら)と言う)の根から、幾度となく水で晒し、アク抜きをして純白になるまで精製した良質の澱粉です。滋養のある食べ物として、また和菓子や料亭に欠かすことのできない食材として、重宝がられた良質の本葛は、100キロの根から、わずかに7〜10キロしか取れない大変貴重なものでした。そのために『白い金』と呼ばれ、当時より大変高価なものでした。


●188年前に確立された製法

 本葛づくりを始める前はロウソクの原料屋や造り酒屋を営んでいたという高木家。文政二年(1819年)初代久助は、秋月一帯に自生する良質の葛に目をつけ、独自の製法で本葛粉の精製に挑みました。ところが出来上がった本葛を関西で売り出してみたところ、あまり評判がよくありません。そこで研究熱心だった初代久助は、本葛づくりの名産地であった紀州の保田村(ほだむら)に単身赴き、製造元に懇願して雇い人に加えてもらうことができました。

 数年修業の末、晒し法の極意を会得し故郷の秋月へ帰ってきた初代久助は、さらに精進を重ねつくりあげた会心の本葛を、廣久本葛として時の藩主九代黒田候に献上しました。それが目に留まり、廣久本葛は幕府への献上品として江戸に贈られることに。やがて江戸市中でも評判となり、菓子職人の間で本葛のことを『久助』と呼ぶまでになりました。

 このようにして初代高木久助によって確立された製法は、現在もなお変わることなく一子相伝により、現在の十代高木久助氏に受け継がれています。そして高木家には、本葛づくりにまつわるいきさつや、細かな本葛の製法に至るまで、初代によって書き記された古文書が、今も大切に残されていました。


●手間と時間を惜しまないものづくり

 廣久の本葛は、昔も今も変わらず原料はすべて国内産の山野に自生した天然の寒根葛だけを使用し、創業以来の伝統製法によって、手間と時間をかけてつくりだされています。そのつくり方を、簡単に十代久助氏に教えていただきました。

 まず繊維状に粉砕した寒根葛に真水をかけて、根に含まれている澱粉を洗いながらしぼります。絞りとった汁は、最初は醤油のような色をしていますが、沈澱させ上の汁を捨て、また真水を入れて攪拌、沈澱を繰り返す。寒根葛の根は、霜で葉が枯れて養分が根に蓄積される12月から、芽が出る3月いっぱいまでしか収穫しません。そのため製造の時期は秋月でも一番寒さの厳しい時期と重なります。「水が切るように冷たいこの時期に、不純物を取り除きながら晒しの作業を数十回繰り返していくのです。しかし、この秋月の清らかな水ときりっとした寒さが、いい本葛づくりには欠かせないのです」。晒しを終えたものを厚手の布を敷いた『船』と呼ばれる大型の木箱に入れ、水を抜き、とうふ大に切ったものを半日日干しにしたのちに、二〜三ヵ月陰干しに。さらに約半年から一年じっくりと寝かせ熟成させてはじめて、澱粉独特の匂いが消え、滑らかな舌ざわりとねばりの良い本葛が出来上がるのです。


●あたり前のことをあたりまえに

 「本葛づくりでいちばん難しいと言われているのは、昔から本葛の原料集めと言われています」と久助氏。戦後秋月の雑木林はほとんどなくなり、植林が行われました。そして木に巻きつく葛のかずらは、木の品質を落とすということから、そのほとんどが根を切られてしまいました。

 現在、原料である寒根葛は、主に鹿児島県から掘り出されていますが、それでも30年から50年ものの寒根葛となるとそう簡単には手に入りません。しかも、現在でも手堀され、山から運び出すのも全て人力となると、原料費が高くなるのは避けられません。

 「日本の本葛の原料は、中国産に頼っているのが現状です。そして機械によって効率よく生産するために、化学薬品等を駆使して1年半かかるところを短時間で作り上げてしまうのです」。正直に、昔ながらを貫けば年間の生産量はおのずと制限され、当然ながら商品も安いものにはなりません。「それでも私はあたり前のものをあたり前につくりたい。いろんな事情はあると思いますが、それはつくる側の考え方次第だと思うんです。だったら、私は食べるものをつくる者として、家族にも子供にも安心して食べさせられるものをつくっていきたい。そう思いますね。」

 近年スローフードの考え方が一般に知られるようになり、料亭や和菓子店の他にも本物を使いたいという一般の主婦などに人気が出てきたという廣久の本葛。これからもこの伝統を守り、後世につなげて欲しいと願います。



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